- クルマは独自の課題を抱える音響空間
- Sonosはコンパクトセグメントにおける新たなパートナー
- 将来の展望:心地良いサウンド体験をもたらす、没入型3Dサウンドを実現
(ドイツ本国発表資料)
2021年4月27日、インゴルシュタット:アウディの各モデルに完璧に調和した、自然で心地良いサウンド。アウディにとってオーディオシステムのサウンドは、品質における重要な要素の1つです。アウディは、プレミアムブランドとして、インフォテインメントの品質だけでなく、サウンドそのものの品質とクルマの音響性能を重視しています。アウディのお客様は、エキサイティングで刺激的な音響体験を求めています。アウディの理想的な音響空間とは、耳障りなバックグラウンドノイズがなく、調和の取れた信号音、警告音、通知音を使用して、作動音も控えめに抑えられたものです。
人はクルマのなかでどのようなノイズを認識し、それらはどこから来るのでしょう?
クルマのバックグラウンドノイズとは、多様なノイズとサウンドが混ざり合ったものです。エンジンノイズ、タイヤノイズといった通常の走行音は、シャシーに当たる空気の流れが作り出す風切り音と同様に、つねに耳に入ってくるものです。さらに、パワーウィンドーやドアの開閉音など、一時的なノイズも生み出されます。信号音や通知音は、機能的なメッセージを耳障りにならないように伝えるのが理想的です。方向指示器の作動音や、MMIディスプレイのタッチスクリーンの音響フィードバックも同様です。操作時のボタンやスイッチ類は、控えめでありながらも、明確な通知音を出す必要があります。大きな警告音は、乗員の注意を引くために、必要時にのみ発せられます。
アウディは、望ましくないノイズの源をどのようにして探るのですか?
私たちは、ノイズの削減を総合的な観点から捉えています。車両全体やシャシーの開発から品質保証まで、さまざまな専門分野のエキスパートが「Rustle and Rattle」(ラッスル&ラトル)と呼ばれるチームを編成し、そのために共同作業を行っています。彼らはアウディのすべてのニューモデルを、実際の道路、振動試験コース、ハイドロパルス装置でテストし、評価しています。ハイドロパルス装置はサーボ油圧方式の試験機で、車両を振動させることができます。乗員コンパートメントで聞かれるガタガタ音やきしみ音といった不快ノイズは、50ヘルツ以下の低周波振動が引き起こします。ノイズ源を探ってその特定に至るため、個別のコンポーネントおよびシャシー全体の振動反応が試験されます。ノイズの発生地点と体感地点が、常に同じであるとは限りません。車両の振動音響バランスは、ドライバーの快適性レベルに大きな影響を与えます。
内燃エンジン搭載車と電気自動車の間で、音響面の違いはありますか?
内燃エンジンと異なり、電気モーターは振動、機械的ノイズなどをほとんど発生しません。そのような環境では、それほど認識されなかったノイズも耳障りになる可能性があります。それには、風切り音やタイヤの転がり音などが含まれます。アウディは、それらのノイズの発生源に対策を行い、不快な影響をできるだけ抑制することに多大な努力を払っています。たとえば、Audi e-tronのシャシーにおいて、不快ノイズが伝わる可能性のあるすべてのエリアは、注意深く対策され、分離されています。シャシーにおいて、設計上の開口部や中空箇所にはマイクロファイバーのフリースが詰められています。テキスタイルファブリックやマイクロファイバーフリースは、ホイールから発生するノイズの吸音材としても使用されています。さらに、フローリングなどの表面は特殊素材でコーティングしています。これには、シートメタルの振動を抑制する効果があります。
フロントウォールにおいては、複雑なマルチコート処理がノイズを封じ込め、フロントエンドから車内へのノイズの侵入を遮断しています。リヤアクスルにも電気モーターを搭載した車両では、リヤにもフロントと類似した構造を採用しています。電気モーター自体も、ノイズ低減のためカプセルに封入されています。アンダーフロアの貼り合わせも、音を吸収するように設計されています。車内に目を転じると、フォーム材で裏打ちしたカーペットが静粛性を維持しています。Audi e-tronの車内で実現されている、リラックスした雰囲気の重要な要素は、入念な調整を受けたエアロダイナミクスです。通常、車速が85km/hに到達し、それ以上になると、ノイズの中でも風切り音がもっとも顕著な課題となります。しかし、ドアシール、エクステリアミラー、ウエザーストリップなどが丁寧にファインチューンされているAudi e-tronでは、風切り音は非常に低く抑えられ、車内に侵入してくることはほとんどありません。高速走行時でも、乗員はリラックスした会話が可能です。フロントウィンドーには、標準で二重ガラスを採用しています。オプションとして、サイドウィンドーにアコースティックガラス(防音ガラス)を装着することも可能です。
アウディは排気音を増幅・生成したり、アクティブノイズキャンセレーションを使用していますか?
近年、アクティブな音響対策がますます重要になっています。たとえば、アクティブノイズキャンセレーション(ANC)を活用すれば、エンジンノイズの一部をキャンセレーションサウンドによって低減することが可能です。このシステムは、ルーフライニングに埋め込まれ、車内のサウンドレベルを測定する ANCマイクロフォン(A8の参考例を参照)をベースにしています。コントロールデバイスはその音波を反転させ、中和音をサブウーファーから流します。逆に、Audi SQ5 TDIは、エキゾーストシステムにアクチュエーターを備え、心地よい音をさらに強調しています。専用設計されたスピーカーにより、必要に応じて、より存在感のあるダイナミックなエンジンサウンドを響かせてくれます。電気自動車のAudi e-tron GTでも、ドライブセレクトのモードを選択することにより、オーディオシステムを介してスポーティーなサウンドを生成することも可能です。
心地よく快適な車内の音響環境は、どのようにして生み出すのですか?
この作業は、サウンドエンジニアが行います。彼らはあらゆるサウンドを検討し、必要に応じて調整、抑制、強調などを行います。車内の音響を調和させるには、あらゆるサウンドが関係しているからです。数多くのノイズ対策とともに、すべての車両は、音響空間としての特別な課題を考慮しなければなりません。乗客はさまざまな位置に座り、乗員の数によって空間容積は大きく変化します。パノラミックルーフを搭載したクルマも、そうでないクルマもあります。またインテリアに採用する生地やレザーは、音を反射したり吸収したりします。さらには、スピーカーが発生したサウンドがリスナーの耳に到達するまでの時間も異なります。
3Dサウンドは、どのように機能しますか?
3Dサウンドとは、空間の三次元性を音響的に実現するサウンドを表します。録音が発明されたとき、サウンドは1つのスピーカーから再生されるだけでした。すなわち「モノラル」です。1つのスピーカーではステレオ音声の再生は不可能で、サウンドはフラットです。1960年代に、位置を変えた2本のマイクで録音を行う、ステレオサウンドが登場しました。再生時、録音された音声情報(モノラル信号)は2つの違うチャンネルに割り当てられ、左右のスピーカーから流れます。それによって空間感覚、すなわちステレオ効果を持ったサウンドが生まれました。このステレオサウンドが、いわゆる「1D」です。
その発展形である「2D」とは、サラウンドサウンドです。2000年代に入り、このマルチチャンネル技術は広く普及しています。サウンドはサブウーファーと、前面、後面、側面に設置された複数のスピーカーから流れます。使用するスピーカーの数に応じて、5.1規格から8.1規格まであります。しかしながら、このレベルにおいて、各サウンドエフェクトは、1本または1つのグループのスピーカーにのみ割り当てられます。
「3D」では、異なったレベルのサウンドソースが追加されます。2016年に現行モデルのAudi Q7を発表して以来、アウディは高さの次元もサウンドに組み込むことを可能にした3Dサウンドを備えた、Bang & Olufsenサウンドシステムを提供してきました。システムは、そのためにいくつかの追加のブロードバンドスピーカーを使用します。これらはAピラーに組み込まれ、Audi A8とQ8ではBピラーとルーフライナーにも追加されています。車内は、録音が行われたコンサートホールと同様に、大きなステージへと変化します。このテクノロジーの背景には、アウディがフラウンホーファー研究所と共同開発したアルゴリズムがあります。Symphonia 2.0 3Dアルゴリズムは、ステレオまたは5.1音源からの情報を分析し、三次元的な深みを備えた3Dスピーカー用のデータを作成します。それにより、車内で柔軟に再生可能なサウンドエフェクトが実現しています。フルサイズクラスで最上位のオーディオシステムであるBang & Olufsenアドバンストサウンドシステムでは、出力1,920ワットのアンプが、デジタルシグナルプロセッサー、24チャンネル、23のスピーカーと連携して作動します。このテクノロジーは、音響面において、乗員コンパートメントに広大なコンサートホールのような雰囲気を創出します。しかし、アウディは、コンパクトクラスでも音質に妥協はしていません。コンパクトクラスでは、空間の制限に合わせて、テクニカルコンセプトを調整しています。Audi A1の場合、4つのミッドレンジスピーカーがダッシュボードに上向きで設置されており、フロントウィンドーを反射面として活用しています。それにより、コンパクトクラスでは極めて異例な、高品質な3Dサウンドが実現しています。
サウンド開発において、デジタル化はどのような役割を果たしましたか?
各モデルに最適なサウンドを開発することは、アウディにとって中心的な要素となっています。そのために開発したのが「soundCUBE」と呼ばれるソフトウェアです。このオーディオソフトウェアソリューションにより、バージョン数を抑制し、開発時間を大幅に短縮することが可能になりました。アウディは、「soundCUBE」によって、オーディオパートナー各社に機能的な仕様と統一感のある作動哲学、音響哲学を備えたフレームワークを提示することにより、最高の開発環境を提供しています。パートナー各社は、アウディのDNAを定義する、そのフレームワークを製品に統合するだけで済みます。アウディは、つねに最適化されたソフトウェアを使用することで、既存のハードウェアを使いながら最高の現代的サウンドを生成することに成功しています。
もう1つのイノベーションは、均一なオーディオバスを経由して作動するブースターの使用です。そのサウンドは、最新世代のMIB3インフォテインメントのメインユニットソフトウェアによって生成されます。プレミアムサウンドシステムにおいて、ブースターは高性能スピーカーを制御するという追加的機能も提供します。これによって、システムのアーキテクチャーも簡素化されます。 アウディは、極めてモダンなデジタルサウンド研究所において、新しいサウンドソリューションをさらに洗練させています。この研究所で働くサウンドスペシャリストは、きわめてリアルなシミュレーションを活用し、実車プロトタイプがまだ存在しない段階から、さまざまなモデルシリーズのサウンドチューニングを行っています。これにより、スイートスポットに座った乗員全員に最高のリスニング体験が提供されるよう、バーチャルリファレンスルーム内で各座席におけるサウンド仕様を分析することも可能になりました。
アウディはSonos(ソノス)との新パートナーシップで、どのようなメリットを得ることができますか?
Audi Q4 e-tronの開発にあたって、アウディは自然で本質的なサウンドを重視する姿勢を維持しつつ、新しいハイファイ・パートナーシップを締結しました。このパートナーシップにより、アウディは、お客様の要望にさらに応えるための、ハイエンドシステムを追及しています。臨場感溢れるサウンドを特徴とするBang & Olufsenのシステムは、ミッドサイズおよびフルサイズモデルの要件に完璧に適合する一方で、低音を強調するサウンドを特徴とする新しいパートナーのSonosは、若いターゲットグループに訴求します。そのため、Sonosは、アウディによる電気自動車のエントリーモデルとなる新しいコンパクトSUVに最適な選択肢となります。Sonosによるダイナミックなサウンドとチューニング哲学は、アウディのコンパクトクラスの他モデルにも搭載され、今年の半ばに登場します。
次の大きなテーマ:アウディのオーディオ開発者は、現在は何に取り組んでいますか?
アウディのサウンドスペシャリストは、現在もサウンドラボで、総合的な未来のサウンド体験を実現するための研究に取り組んでいます。その中心的な研究テーマは、「没入型3Dサウンド」と呼ばれるものです。従来の3Dサラウンドサウンドでは、アルゴリズムに基づき、音声が特定のスピーカーに割り当てられます。そのようなチャンネル指向の再生とは異なり、没入型3Dサウンドはオブジェクト指向を特徴としています。このプロセスにおいて、オーディファイルに保存されたサウンドは、実際の空間において、サウンドがどのようにして、どこで聞こえるかに関する正確な情報を含むメタデータと事前にリンクされています。すなわち、録音時の音響環境とまったく同じ再生が可能になることを意味しています。没入型サウンドは、五感すべてに訴えかける、まったく新しいエンターテインメント体験の中心となるものです。しかしそれは、完全な自動運転自動車に乗った未来の人々が、運転という役割から解放され、そのような五感に訴えるサウンド体験を楽しめる時代が来て、はじめて実用化されるものです。
次の大きなステップ:5G高速モバイル通信ネットワークの広がりは、新しい高品質ストリーミングチャンネルの未来を切り開きます。現在、車内で音声ストリーミングサービスを受信するデバイスとして、多くの人々がスマートフォンを使用しています。コンテンツは、Bluetooth経由で簡単に転送することができるため、確かに便利です。しかし、Bluetoothワイヤレス技術の周波数帯域には制限があるため、障害が発生して音質が低下することがあります。近未来において、アウディは、SIMカードと高性能レシーバーモジュールを搭載して、クルマそのものをレシーバーとして活用し、マルチチャンネルのオーディオストリーミングを実現します。これは、アウディのサウンドエンジニアによる、未来への道のもう1つのマイルストーンです。