2020年5月、インゴルシュタット/ネッカーズルム:Audi Sport GmbHが手掛けるRSモデルは、アウディ製品ラインナップのダイナミズムを象徴するモデルとして重要な役割を担っています。RSの魅力とは、標準モデルとは一線を画したデザイン、日常ユースにおける使い勝手の良さとあらゆる場面でも得られる最高水準のパフォーマンスを両立させること、そして究極のドライビングで体験することができる力強いキャラクターです。RSは、デザイナー、開発およびテストエンジニアが細部に至るまで、一切の妥協を排して開発作業を行った結果として誕生したモデルであり、世界各国で行われる走行テストを通じて、そのクオリティは極めて高いレベルに達しています。その舞台裏には、数多くのストーリーが隠されています。
伝説のサーキット、ニュルブルクリンクのノルドシュライフェ(北コース):
全長20.832kmのノルドシュライフェは、世界でもっとも過酷なサーキットとして知られています。ここでは、1メートル走行する毎に困難なチャレンジが待ち受けると言っても過言ではありません。左右に短く連続する超高速S字コーナー、フックスレーレでは強烈な垂直Gがドライバーを襲い、荒れた路面のカルーセルではボディが跳ね上がり、ジャンプスポット、プフランツガルテンではクルマが宙に舞い上がります。また、コースの80%以上がアクセル全開区間であることも特徴です。最大級の負荷が連続で襲いかかるノルドシュライフェでは、1kmが一般道の数十倍の距離に相当すると言われています。このサーキットで8,000kmを走行すると、通常の自動車の生涯の走行距離に匹敵します。常に高い負荷がかかるノルドシュライフェは、あらゆるスポーツカーのベンチマークとなるテストコースとして有名です。言い換えれば、ニュルブルクリンクのテストに合格すれば、世界のどこに行っても通用するクルマに仕上がることを意味しています。
優れたスキルと経験を持つ有能なテストドライバーにとって、ノルドシュライフェはクルマのすべてを知る絶好の場所です。長所と短所、ラップタイムを短縮する精密なハンドリング、限界域でも維持されるコントロール性、そして何より、もっとも過酷な状況下でも発揮される確かなクオリティ。このような理由から、Audi Sport GmbHは、ノルドシュライフェを世界最高の開発およびテストコースであると考えています。
Audi Sportのノルドシュライフェ エキスパート:フランク スティップラー
フランク スティップラーは、"グリーンヘル"(緑の地獄)の異名で知られるノルドシュライフェのエキスパートであり、世界でもっともこのコースを熟知するレーシングドライバーの一人です。ケルン生まれのスティップラーは45歳。現在は、ニュルブルクリンクのあるアイフェルに住んでいます。彼は、他のレーシングドライバーとは異なり、Audi Sportの歴史と深い関係を持っています。彼の最高の戦歴には、2012年のスパ・フランコルシャン24時間レースやニュルブルクリンク24時間レース(2012年と2019年)における総合勝利が含まれます。スティップラーは、Audi R8 LMS GT3が2009年にレースデビューして以来、ワークスチームにその名を連ねています。ドライバーとしてのスキルはもとより、エンジニアリングとしての知識でも、さまざまな貢献を果たしてきました。それ以来、カスタマースポーツ レーシングカーおよびスポーティな市販モデルの開発においては、彼なしには考えられない存在となっています。もちろん、Audi のハイパフォーマンスモデル、RSやR8の開発でも同様です。特にR8は、2019年初頭に本格的なアップデートが施され、CoupéとSpyderに加えて、後輪駆動のR8 V10 RWDへと進化を遂げました。
スティップラーは、2019年秋、Audi RS Q8のステアリングを握り、ノルドシュライフェのラップタイム更新に挑戦しました。記録認定員が見守る中、7分42秒253をマークして、標準SUVカテゴリーのラップタイムを一気に12秒も更新しました。新記録樹立は、開発作業の主目的ではないものの、アウディが誇るもっともスポーティな“Q”モデルの、力強いダイナミズムが証明されたことは明らかです。
オリバー ホフマン:「ノルドシュライフェは、究極の耐久テストの場」
Audi Sport GmbHマネージングディレクターのオリバー ホフマンは、次のように述べています。「ノルドシュライフェは、私たちの開発および調整作業における究極の耐久テストコースです。RSの名を冠するすべてのモデルは、ここで少なくとも8,000kmのテストを実施しています。ノルドシュライフェのテストでは、もっとも過酷な条件の下、各種パーツの耐久性やサスペンションセットアップに関する詳細な情報が確認されます。RS Q8の場合は、スプリング、ダンパー、ESPのセットアップ、ロールスタビリティ、スポーツディファレンシャルの特性の確認が主なテスト項目でした」
アウディ史上最速のSUVのキャラクターとは、どのようなものなのか、ホフマンは次のように説明しています。「Audi RS Q8は、卓越したパフォーマンスと類まれなデザイン、パワー、そしてSUVならではの多様性のすべてを持ち合わせているだけでなく、アウディ独自の高い品質基準も満たしています。RSは、パワフルでユニークなキャラクターを特徴としています。必要とあらば、いかなる条件でも最高のパフォーマンスを発揮するだけでなく、長距離走行では、ドライバーに疲れを感じさせることなく、快適さとハイパフォーマンスを提供し続けます」 多くのRSドライバーは、ビジネスや出張などで長距離を走行するため、特に疲労を感じさせないことが大切です。ネッカーズルムの技術開発責任者でもあるホフマンは、次のように付け加えています。「RSは、まさにジキルとハイドのように、両極の性能を備えているのです。どのように運転しても、ドライバーに最高の体験を提供します。息を呑むようなデザイン、ハイエンドなスタイル&フィーリング、そして卓越したクオリティが、すべてを根底から支えています」
12のモデルラインナップ:RSイニシアチブが進行中
Audi RSのモデル攻勢が本格化しています。AUDI AGの特にスポーティなモデルを担当するAudi Sportは、現時点で合計12のRSモデルラインナップ(Audi RS 3 Sportback/Sedan、RS 4 Avant、RS 5 Coupé/Sportback、RS 6 Avant、RS 7 Sportback、TT RS Coupé/Roadster、RS Q3、RS Q3 Sportback、RS Q8)を市場に送り出しています。このうち8車種は2019年にデビューしたばかりですが、Audi Sport GmbHは、すでに近い将来に向けてさらに多くのアイデアを提案しています。
新たなRSは、ベースモデルのデビュー後の早い段階で追加され、ラインナップを強化します。RSの特性は、開発の初期から確定され、標準モデルとほぼ同時進行で開発が進められています。開発作業では、デザインだけでなく、パワートレインやサスペンションも重要な開発テーマに掲げられています。最終的には、すべてのアウディ製品が備えるスポーティなDNAを最大限に引き出すことが、開発の最大のテーマです。
現代のクルマにふさわしい効率を確保することも、基本開発目標のひとつです。Audi RS 6 Avant、RS 7 Sportback、RS Q8 には、48Vの主電源システムによる先進的なマイルドハイブリッドシステムが採用されるほか、V8 TFSIエンジンには、パーシャルロード域で特定のシリンダーの作動を休止するシリンダーオンデマンド(COD)システムが導入されています。このような機能の作動は、あくまでもRSモデルにふさわしいマナーで実行されなければなりません。RSの開発という長く険しい道のりは、“ファインチューン”のひと言では決して語り尽くせません。ホフマンは、次のように述べています。「常に一貫性を持って、高い精度で仕事をした場合にのみ、RSのユニークなキャラクターを確立することができます。豊富な経験と明確なビジョンが、理路整然としたコンセプト確立のカギを握っているのです」
地球を30周:RS Q8テストプログラム(他のRSモデルにも適用)
Audi Sport GmbHのテストエンジニアは、2年にも及ぶ歳月を費やして、Audi RS Q8の走行テストを実施しました。この間に、開発車両とプロトタイプの走行距離は120万kmを超えています。これは、実に地球30周に匹敵します。走行テストは、フィンランド、スウェーデン、フランス、イタリア、南アフリカ、中国、米国で実施されました。また、一般道だけでなく、あらゆるタイプのサーキットでテストが行われました。
南イタリアのナルド オーバルテストコースでは、常時高速を維持しながら、全コンポーネントの長距離耐久テストが行われました。スカンジナビアの氷雪路は、サスペンションや制御システムの反応を煮詰めるための理想的な条件を提供しました。特に滑りやすい路面では、わずかな設定変更が劇的な姿勢変化に繋がります。また、灼熱の太陽が照り付け、激しい高低差がある南アフリカは、エアコンディショナー、エンジン冷却、パフォーマンス特性の過酷なテストの場となりました。
レーシングカーからインスピレーション:RSデザイン
Audi RSモデルは、アウディモデルラインナップのダイナミズムを象徴する存在であり、とても印象的なエクステリアデザインにもそのコンセプトが現れています。RSのデザインは、モータースポーツをインスピレーションとして、クールで控えめな表現とダイナミックなディテールを巧みに組み合わせています。モータースポーツで最高のパフォーマンスを発揮するには、コンポーネントの設計においても極限を追求しなければなりません。“Form follows function:形態は機能に従う”という理念の下、モータースポーツからフィードバックされたハイパフォーマンステクノロジーは、RS専用のデザインにも必然的に現れています。
Audi R8のシングルフレームグリルのプロポーションとレイアウトが、多くのRSモデルにも適用されています。標準バージョンよりも低くワイドなフォルムが強調されることに加え、エレガントなクロームではなく、スパルタンかつスポーティなイメージを醸し出すブラックが採用されています。さらに、一部のRSモデルには、フロントグリルとボンネットの間に、1984年のアイコンモデル、Audi Sport quattroを彷彿とさせる水平の細いスリットが追加されています。大型エアインレットと大口径楕円テールパイプの組み合わせは、ターボチャージャーによるエンジンのパワーを象徴しています。
ボディにも、エクスクルーシブな雰囲気が漂います。特に、Audi RS 6 Avantのスタイルは、非常に印象的です。全幅はベースモデルより80mm広くなり、フェンダー、リアドア、サイドパネルフレーム、フロントセクション、ボンネットは、RS専用に仕上げられています。ベースモデルから流用されているのは、フロントドア、ルーフ、テールゲートのみです。この高性能なAvantモデルのホイールアーチは、22インチ(Audi RS Q8は23インチ)までのホイールに対応しています。
ワークショップとマスタージグ:開発中も最高のクオリティを確保
品質に一切妥協しないアウディの姿勢は、すべてのRSモデルに貫かれています。Audi Sport GmbHマネージングディレクターのオリバー ホフマンは、次のように述べています。「弊社のお客様は、市場で入手可能な最高の製品を求めています。アウディには、最高のスペシャリストが在籍し、チーム一丸となって高い期待に応えます」 初期ロットが手作業で組み立てられるRSワークショップは、開発段階で重要な役割を果たします。
品質管理部門は、開発段階から市販モデルに大きな影響を及ぼしています。RSのボディは、マスタージグと呼ばれる超高精度のアルミニウム測定器具を使用して組み立てられます。また、レーザースキャナーなどの最先端の測定方法を使用して、パーツの表面に数百万の測定点を設定し、すべての表面、接合部、半径を10分の1ミリ単位で調整します。こうしたハイテクアプローチは、空力効率の向上に役立つと同時に、RS特有の魅力をさらに引き上げる効果を発揮します。
4つの拠点:RSの生産
AudiのRSモデルは、ヨーロッパ4カ所の拠点で生産されます。Audi RS 3 Sportback、RS 3 Sedan、RS 4 Avant、RS 5 Coupé、RS 5 Sportbackは、ドイツのインゴルシュタット工場からラインオフします。Audi RS 6 AvantとRS 7 Sportbackは、同じくドイツのネッカーズルムで生産されます。ハンガリーのジュール工場では、Audi TT RS Coupé/Roadster、RS Q3およびRS Q3 Sportbackが生産されています。Audi RS Q8の生産は、スロバキアのブラチスラバ工場で行われています。すべてのRSモデルには、標準バージョンと共通の生産工程システムが採用されています。プレスショップでは、アルミニウムやスチールの専用シートメタルコンポーネントが製造され(その多くはアルミニウム)、ボディショップで組み立てられます。
サスペンションおよびドライブトレインとボディと合体させるマリッジと呼ばれる生産工程は、特にV8エンジン搭載モデルでは非常に高度な作業となります。RSモデルには、エキゾーストシステム、バンパー、リアエプロン、ホイールといったRS専用コンポーネントも装着されます。ネッカーズルムでは、稼働1日につき、2桁の台数のAudi RS 6 AvantとRS 7 Sportbackが組み立てられます。すべてのモデルは、テストコースで点検を受けた後に、お客様に納車されます。
ネッカーズルム工場近郊の“ベーリンガーホフ”工場は、Audi Sport GmbHの本拠地です。ここでは、Audi R8 Coupé/Spyder、そしてR8のレーシングカー Audi R8 LMS GT2/GT3/GT4が、ほとんど手作業により同じラインで生産されています。近い将来には、電気自動車のスポーツカー、Audi e-tron GTの生産も開始される予定です。
※本リリースは、AUDI AG配信資料の翻訳版です。