アウディは、ドライブシステムの電動化を大規模に進めてきました。2017年の中頃に、新しいマイルドハイブリッドのドライブシステムを採用したクルマ(MHEV)を生産開始することになります。新世代ラグジュアリーセダンの新型Audi A8は、すべてのエンジンタイプに48ボルト電源を活用したマイルドハイブリッドシステムを用意しています。
この新しいテクノロジーはディーゼルともガソリンエンジンとも相性がよく、例えば、V6ガソリンエンジンの場合、NEDCサイクルで100km走行あたり最大0.7ℓの燃料消費量を削減しています。さらに、エンジンに採用される他の効率化テクノロジーと違い、MHEVには160km/hまでの速度域で静かなコースティング(無負荷走行)を実施して、快適性も高めるという効果があります。
アウディは2つのタイプのMHEVを開発しています。そのうちひとつは4気筒エンジンを搭載したモデルで、従来どおりの12ボルト電源を使います。それに対して6気筒、8気筒、そしてW12気筒エンジンを搭載したモデルには48ボルトシステムを車両の主電源システムとして採用しています。とりわけ、48ボルト電源のテクノロジーを用いることで、クルマがより効率的になるだけでなく、よりスポーティでより快適になる可能性も開けていきます。
2017年のジュネーブモーターショーで、アウディはAudi Q8 sport conceptを発表して、このテクノロジーの大きな可能性を示しました。このショーモデルでは、48ボルト電源システムが、進化したMHEVシステム及び電動式コンプレッサー(EPC)と組み合わされることで、かつてないダイナミックなパフォーマンスが実現しています。同時に、エネルギー効率も大幅に改善されており、パーキングを含めた低速走行では完全な電動モードにおける運転も可能になっています。
MHEVの作動原理
新型Audi A8に搭載されるマイルドハイブリッドのドライブシステムには、2つの中核コンポーネントが採用されています。そのうちのひとつがエンジン前方に搭載された水冷機構を備えたベルト式オルタネーター/スターター(BAS)で、ヘビーデューティなV型リブのベルトを介して、エンジンのクランクシャフトと連結されています。このBASは最大12kWの電力を回生し、60Nmのトルクを発生します。
もうひとつのコンポーネントは10Ahの充電容量を持ち、48ボルトの電流を安定供給できるリチウムイオンバッテリーです。新型Audi A8では、新開発の48ボルトシステムが、車両の主要電源になっていて、12ボルトのシステムはその主電源にDC/DCコンバーターを介して接続されています。ラゲージコンパートメントに設置された再充電可能なリチウムイオンバッテリーは大きめの鉛バッテリーと同じぐらいのサイズで、温度管理のための空冷機構が備わっています。 48ボルト電源をベースにしたMHEVテクノロジーはクルマの快適性と燃費効率を大幅に改善します。30~160km/hで走行中にドライバーがアクセルペダルから足を離すと最大45秒、エンジンの作動が完全に停止して、クルマはコースティング(無負荷走行)の状態を続けます。低速でコースティングしているときは22km/hでスタート/ストップシステムが作動するようになっています。
ドライバーがふたたびアクセルペダルを踏むと、停車中、走行中に関わらず、エンジンが即座にかつスムーズに運転を再開します。そのときBASにより、内燃エンジンの回転が即座に既定の速度まで上げられ、燃料が噴射され、ガソリンエンジンの場合はイグニッションも作動を再開します。従来型のピニオン式スターターも搭載されていますが、それが作動するのはエンジンオイルの温度が低く粘度も高い冷間始動時のみです。そうした条件下では、BASのベルトが滑ってしまう可能性があるからです。
多くの場合、減速時にエネルギーを回生した方がコースティングよりも効率が高まります。新型Audi A8では、回生/コースティングの判断をドライブマネージメントシステムで行います。このシステムはフロントカメラに加え、予測効率アシスタント、ナビゲーションシステムに保存されているルートデータ、高度にネットワーク化されたセンサーから提供されたデータを元に判断を下します。最終的に、マイルドハイブリッド駆動システムはNEDCサイクルで最大0.7ℓ/100kmの燃料を節約することに成功しています(V6 TFSIの場合)。
アウディは従来型の12ボルト電源との組み合わせでも、MHEVテクノロジーを提供します。この場合のエンジンは2.0 TFSIとなります。システムの基本構成は48ボルトの場合と同じですが、コースティング機能が働く範囲、エネルギー回生の量、CO2排出量の削減幅などがそれぞれ小さくなります。
幅広い応用範囲:48ボルトの自動車用電源システム
48ボルトの電源システムは、2016年からMHEVとの組み合わせとは別の形で、生産モデルのAudi SQ7 TDIに採用されてきました。このクルマでは、オルタネーターは依然として12ボルト電源で稼働しており、48ボルトのシステムはDCコンバーターを介してメインシステムに接続されたサブ電源という扱いになっています。しかし、V8ディーゼルエンジンの電動式コンプレッサー(EPC)とエレクトロメカニカル アクティブロールスタビライゼーション(eARS)には48ボルトシステムから電力が供給されています。
EPCは、排ガス流が遅いため、4.0 TDIエンジンに2基装着されたターボチャージャーが即座に機能を果たせないとき、いつでも最大7kWのパワーを発揮して、その働きを助けます。アクセルペダルを踏んだ瞬時にパワーが沸き上がる感覚は、とりわけ発進時などドライバーに強烈な印象を与えます。もうひとつの注目すべき革新テクノロジーであるeARSは電気モーターを制御することで、2分割されたスタビライザーを直進時には足回りから切り離し、乗り心地を改善します。その一方で、カーブが続く道をスポーティに走るときは電気モーターによりスタビライザーの2つのチューブをつないで、タイトなハンドリング特性を実現します。
アウディは現在、48ボルト電源とMHEVのテクノロジーをより多くの量産モデルに導入するために全力で取り組んでいます。数年以内には、Audi A8以外のモデルシリーズにも、新しいマイルドハイブリッドを採用したモデルが登場することになるでしょう。新しい車両のアーキテクチャーにより、エンジンのパワー/トルクをさらに向上させる余地が得られており、革新的なテクノロジーのおかげで燃費効率もさらに改善されつつあります。中期的にアウディはポンプやコンプレッサーといった補器類のすべてを48ボルト電源で稼働させたいと考えています。そうすることで要求に従ったより精密な制御や軽量化、設計のコンパクト化などが可能になると考えています。同じことは、ウインドーヒーターやサウンドシステムといった大電力を消費する装備品についてもいえます。ただし、制御装置やライト類といった消費電力の少ない装備については今後も12ボルト電源を使用することになるでしょう。
MHEVの未来の可能性を提示:Audi Q8 sport concept
アウディはMHEVシステムの大きな可能性を、2017年のジュネーブモーターショーで発表したAudi Q8 sport conceptを通じて、人々に力強く示しました。クランクシャフトとトランスミッションの間に設置されたスターター/オルタネーターは20kWの出力と170Nmのトルクを発生します。減速時にはこのパワフルなMHEVシステムにより、多くのエネルギーが回生され、電力としてリチウムイオンバッテリーに蓄えられます。低速時にはバッテリーとスターター/オルタネーターにより発揮される力だけで走行することもできます。搭載する内燃エンジン、3.0 TFSIと合わせて、システムトルクは最大700Nmに達します。
Audi Q8 sport conceptの48ボルト電源システムは、スターター/オルタネーターのほかに電動式コンプレッサー(EPC)にも電力を供給しています。EPSはターボラグをなくして、大型でパワフルなツインスクロール ターボチャージャーの働きを助ける役目を果たしています。350kW(476hp)のシステムパワーにより、Audi Q8 sport conceptは0—100km/hを4.7秒で加速し、275km/hの最高速度を実現しています。その一方で、MHEVのシステムにより、燃料消費量は100km走行あたり約1ℓ削減されています。
以上