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2017/05/18Technology

Audi quattro:栄光の歴史

過去36年のあいだに800万台が生産されたAudi の4WDシステムquattroは、自動車史に燦然と輝く偉大な成功作といっていいでしょう。アウディのquattroテクノロジーがデビューを飾ったのは1980年、いまや伝説となったUr-quattro(初代クワトロ)とともにでした。今日アウディは、プレミアムセグメントにおいて、じつに幅広い4WDモデルのラインナップを展開するまでに至っています。quattro 4WDシステムは、コンパクトクラスのAudi S1を含めたすべてのモデルシリーズで提供されており、アウディブランドの重要な柱のひとつになっているのです。

quattroは、テクノロジーにおけるひとつのアイコンであり、その言葉は、ドライビングセーフティ、スポーティネス、技術的優位性、そして、人生に対するダイナミックなアプローチを象徴するものになっています。公道上及びモータースポーツにおけるquattroモデルの成功は、フィンランドのカイポラのスキージャンプ台を独力で登ってみせた1986年のAudi 100CS quattroの映像に代表される有名なTVコマーシャル シリーズとともに、アウディ躍進の契機となり原動力となりました。

quattroはアウディの代名詞であり、アウディもまた、しばしばquattroの代名詞になってきました。1980年にquattroテクノロジーが世に出て以来、累計で800万台以上のquattroモデルが販売されてきました。2015年には、世界でアウディの新車を購入した顧客の44パーセントが、quattroモデルを選んでいます。このパーセンテージの高さこそ、quattroテクノロジー成功の明確な証明といえます。quattroモデルのなかではAudi Q5が、26万2千台で最多の販売台数を記録しています。quattroモデルが人気の地域は、主に米国、カナダ、ロシア、中東の国々などですが、ドイツでも年間12万台を超える販売を記録し、アウディが4WDモデルの分野でトップになっています。

Audi quattroを構成する先端テクノロジー

■ quattro with ultra technology (Audi A4 allroad, Audi Q5, Audi A7に搭載‐2019年2月現在)
4WDの優位性に効率を融合した最新テクノロジー
アウディは、フルタイム4WDならではの運動性能と走行安全性を融合したquattro with ultra technologyによって、quattroの歴史に、未来に向けた新たな一章を付け加えました。このシステムは、エンジンを縦置きにした多くのアウディモデルのために開発され、昨年秋の新型Audi A4 allroad quattroとともにデビューを飾っています。

quattro with ultra technologyを開発する上で目標としたのは、トラクションやハンドリング性能の面でフルタイム4WDモデルのアドバンテージを一切損なうことなく、燃費効率を最適化することでした。とりわけ日常的な使用条件の下で燃料消費とCO2排出を削減するこのシステムは、クラスの新しいベンチマークを設定することになるでしょう。quattro with ultra technologyを備えたモデルは、従来型の4WDモデルに対し、100km走行あたり平均して0.3ℓの燃料消費を削減しています。

4WDシステムのインテリジェントな制御は、常に先の状況を予想して働く設定になっており、そのために、車載する多くのセンサーからデータを受け取って、常時クルマや道路そしてドライバーの状況を分析しています。その結果、quattro with ultra technologyは、いつでも4WDで走る準備を整えながら、ホイールが空転する可能性が少ない低負荷の一般的走行状況においては、FWDによる効率的な走りを選択します。4WDの駆動系は、必要とされないときには休止していますが、常時スタンバイの状況になっています。それにより、従来あったFWDモデルとフルタイム4WDカーの燃料消費の差を劇的に縮めることに成功しているのです。

作動の仕組み
quattro with ultra technologyの4WDシステムは、ドライバーがそれを必要とする前に作動を始めます。quattroシステムの電子機構は、車載されているほかの多くのコントロールユニットとネットワーク化されています。そして、ステアリングアングル、横方向及び前後方向の加速度、エンジントルクといった様々なデータをもとに、100分の1秒という短いサイクルで、走行状況の分析を行っています。

4WDシステムの制御は、3つのステージで行われます。ひとつは準備作動のステージ、もうひとつは予測、すなわち状況を先読みして働くステージ、そして3つめは状況の変化に対応して動くステージです。

能動的作動(proactive)レベルでは、ネットワークされた車載システムから提供されるデータが何より重要となります。quattroシステムのコントロールユニットは、そうしたデータを分析することで、例えば、フロントの内側のタイヤが高速コーナリング中にグリップの限界に達するポイントを算出します。その計算は、実際に事が起こる約0.5秒前に完了し、車輪が想定どおりにグリップの限界に近づいた場合には、駆動方式を4WDに切り替えます。

予測的作動 (predictive)においては、quattroシステムの制御ユニットは、主にドライバーの運転スタイル、ESCの設定状況、アウディドライブセレクトで選択された運転モード、トレーラーの使用の有無などを判断の基準としています。

受動的作動(reactive)は、稀にしか起こりませんが、時として予測が間に合わず、状況の変化に反応する形で4WDへの切り替えが行われる場合です。例えば、路面が乾いたアスファルトから凍結路面に変わり路面摩擦係数が急激な変化をしたようなケースです。

4WDシステムは、夏よりも冬の季節に、より頻繁に作動するようになります。冬の方が路面の摩擦係数が低くなる頻度が高いからです。また、4WDが必要とされるのは、高速で巡行しているときより、比較的低い速度から加速している場合の方が多く、高速道路でquattro 4WDシステムが必要とされるケースは、そう多くありません。

真っすぐの道路を一定のスピードで走行している場合には、たとえ路面が雪などで覆われていても、FWDで安全にドライブすることができます。その一方で、曲がりくねった道を飛ばしているような場合には、たとえ路面が乾いていて、高いグリップ力を提供するアスファルトであったとしても、必ず4WDが選択されます。

真っすぐの道路を一定のスピードで走行している場合には、たとえ路面が雪などで覆われていても、FWDで安全にドライブすることができます。その一方で、曲がりくねった道を飛ばしているような場合には、たとえ路面が乾いていて、高いグリップ力を提供するアスファルトであったとしても、必ず4WDが選択されます。

4WDシステムの休止は、時間的に余裕を持って実行されます。それに対し4WDを再作動させる場合には、必要に応じた素早い対応がなされます。運転状況によっては、コンマ数秒のうちに、4WDへの切り替えが行われることもあります。

quattroドライブシステムをアウディドライブセレクトとネットワークさせることで、ドライバーが4WDシステムの制御プログラムを、自分の好みに合わせて調整できるようにしています。ドライブセレクトでautoのモードを選ぶと、トラクションとハンドリングの最善のバランスという視点からquattroシステムが制御されます。一方、dynamicのモードを選ぶと、後輪へのパワーの伝達が、より早期に、かつより大きな割合で行われるようになり、とりわけ摩擦係数の少ない路面で、ハンドリング性能が向上します。

2つのクラッチ
quattro with ultra technologyでは、ドライブトレインに2つのクラッチを設けた特殊なレイアウトを用いることで、効率を大幅に高めています。FWDに切り替える場合には、フロントのクラッチ=トランスミッションの出力軸に設けられたマルチプレートクラッチにより、プロペラシャフトを切り離します。同時に、リヤのディファレンシャルに内蔵されたデカップリングクラッチ(デカップラー)も切り離され、それによりオイル溜めのなかで回転するディファレンシャルドライブのギヤなど、リヤ側のドライブトレインにおける駆動抵抗の主な発生源が取り除かれます。そうした新しい機能パーツが追加されているにもかかわらず、quattroドライブシステムは、従来型のものに比べて約4kg重量が軽くなっており、その面でも、燃費効率やハンドリング性能の改善に貢献しています。

マルチプレートクラッチ
トランスミッションの最後尾に、4WDシステムの中核コンポーネントのひとつであるマルチプレートクラッチが設置されています。quattroドライブの制御ユニットと一体化した電気モーターにより、スピンドルを回して、このクラッチを作動させています。マルチプレートクラッチは、モデルに応じて5つから7つのペアになったプレートを備え、それらがオイル溜めの中で回転しています。それぞれのペアにになったプレートに、向き合う形でフリクションリングが設置されており、その片側はインプットシャフトを回転させるクラッチバスケットに、もう片方のリングは、リヤディファレンシャルにつながるアウトプットシャフトに、常時接続されています。プレートどうしを圧着させることで4WDシステムを作動させますが、その圧着力をコントロールすることで、前後アクスル間の、バリアブルかつダイナミックな駆動力分配を実現しています。

リヤディファレンシャルに内蔵されたデカップラー(切り離しクラッチ)
リヤディファレンシャルに内蔵されたデカップラーは、それとは違った仕組みで作動します。リヤの右輪につながるシャフトは、ディファレンシャルから出るポイントで2つのパーツに分割されています。ディファレンシャルのアクスルベベルギヤに連なる左サブシャフトと右サブシャフトは、それぞれクロー(ギザギザの爪を持った)エレメントとつながっていて、どちらも噛み合わせることで連結する仕組みになっています。

クロークラッチは、電子制御の油圧機構により切り離され、連結するときは、与圧(圧縮)されたスプリングの力を使います。4WDドライブのクラッチとデカップラーの両方が切り離されていた場合には、フリクションロスと駆動ロスの源となるリヤディファレンシャルの主要パーツ及びプロペラシャフトが動きを停止します。そうした無負荷走行の状況で、なおも回転し続けるのは、アクスルのベベルギヤと、コーナリング中に駆動輪間の回転差を吸収する役割を備えたディファレンシャルの補正ギヤだけで、それらによる駆動ロスは、ごくわずかに過ぎません。

4WDを再作動させるときには、停止していた各コンポーネントが、制御されたマルチプレートクラッチの働きにより、瞬時に動きを加速させます。プロペラシャフトとそれに連なるディファレンシャルハウジングの回転速度が適切なレベルに達するやいなや、クロークラッチが接続されますが、そのとき、電子制御磁力式のメタルピンによりロックレバーが解除され、それによりスプリングが伸びてクラッチがつながる仕組みになっています。クロークラッチの接続に与圧されたスプリングを用いたことで、非常に短い時間での切り替えが可能になりました。

トランスミッション
駆動するアクスルをひとつに限定することで、燃費効率を大幅に向上することができた理由のひとつは、アクスルを直接駆動するシステムの効率が非常に高いからです。効率をテーマのひとつに開発されたSトロニックが、ここでも大きな役割を果たしました。quattro with ultra technologyを最初に採用したモデルである新型Audi A4 allroad quattroにも、7速のSトロニックが標準採用されています。この2つのテクノロジーを組み合わせたモデルは、今後徐々に数を増していくことになるでしょう。

■ MLB:モジュラー ロンギチューディナル プラットフォーム(エンジン縦置きモデル)
セルフロッキング センターディファレンシャル
(Audi A4シリーズとAudi A5シリーズのquattroモデル、Audi SQ5, Audi S6/S7, Audi RS6/RS7, Audi A8に搭載‐2019年2月現在)
フロントにエンジンを縦置きしたアウディモデルにおいて、quattroドライブトレインの中核となるのが「セルフロッキング センターディファレンシャル」です。これには純粋にメカニカルなプラネタリーギヤが用いられているため、作動にラグが生じません。一般的な運転状況においては、このセルフロッキング センターディファレンシャルにより、エンジンパワーが、後輪に60パーセント、前輪に40パーセントというように、前後非対称に分配されています。

前後で差動が生じた場合、斜めの溝を持つスプラインギヤにより、即座に軸方向に働くスラスト力が生み出されます。この力がフリクションディスクの上に作用して、ロッキングトルクを生み出し、その結果、前後輪のうちトラクションのいい側に、より多くのトルクが振り分けられるようになります。

最新の仕様では、走行状況に応じて、前輪に最大70パーセント、後輪に最大85パーセントのトルクを振り分けることができるようになっています。高いロック性能により、より適切なトルク分配ができるようになり、ESCやホイールセレクティブ トルクコントロールといった制御システムとも、緊密な連携が図れるようになりました。

スポーツディファレンシャル
モジュラーロンギチューディナルプラットフォーム(MLB)を用いたアウディモデルのトップバージョンには、クルマの敏捷性と走行安全性をさらに高レベルのものにするための「スポーツディファレンシャル」が設定されています。これを装着することで、ハンドリング面での明確なアドバンテージが得られるようになります。スポーツディファレンシャルは、リヤの左右輪間で駆動トルクをアクティブに分配し、クルマを文字通りカーブのなかに押し込んで、アンダーステアの傾向を打ち消すとともに、オーバーステアの状況になりかけたときには、クルマを安定させる働きをします。結果として、常に機敏でプリディクタブル(ドライバーが予想しやすい)なクルマの動きが得られるようになるのです。

このスポーツディファレンシャルは、左右にスーパーポジションユニットが備わったコンベンショナルなディファレンシャルで、2つのスーパーポジションユニットには、それぞれマルチプレートクラッチとインターナルギヤが内蔵されています。このスーパーポジションユニットの働きにより、リヤの左右輪間で、駆動トルクがバリアブルに分配されます。マルチプレートクラッチの作動は油圧制御で、電気モーターで高性能オイルポンプを駆動して必要なだけの油圧を生み出しています。もうひとつ存在する制御ユニットにより、すべての機能を統括制御し、常時モニタリングする仕組みで、後輪間のトルク分配をアクティブに行うことで、クルマのハンドリング性能、トラクション、スタビリティがいずれも高まります。

■ MQB:モジュラー トランスバース プラットフォーム(エンジン横置きモデル)
電子制御油圧式のマルチプレートクラッチ
(Audi S3, Audi RS3, Audi Q3 quattro, Audi RS Q3, Audi TT quattro, Audi TTS, Audi TTRSに搭載‐2019年2月現在)
アウディは、エンジンを横置きしたコンパクトなquattroモデルに、油圧アクチュエーターを備えた電子制御のマルチプレートクラッチを採用しています。これは、前後重量配分を最適化するために、リヤアクスルに搭載されています。

このクラッチには多数の金属製フリクションリングが内蔵されていて、それが2つずつペアになって、前後に向き合う形で配置されています。ペアになったリングのうちのひとつは、プロペラシャフトを回すクラッチバスケットと常時接続されており、もうひとつはリヤディファレンシャルにつながるシャフトと連結しています。電子制御のこのマルチプレートクラッチにより、トラクション、ドライビングダイナミクス、ドライビングセーフティがいずれも最適化され、同時に、前後アクスル間のトルク分配をアクティブに制御することで、ダイナミックなハンドリング性能も実現しています。

Audi TT、Audi S1、Audi RS Q3及びAudi RS 3 Sedan / Sportbackでは、このマルチプレートクラッチに、とりわけハンドリングの俊敏性を重視した制御プログラムが設定されています。摩擦係数が低い路面においては、sportのモードを選択するかESCの機能を完全にキャンセルすることで、ドリフト状態の維持も可能になります。また逆に、おとなしく走った場合には、クラッチは自動的に一時断たれて、燃料消費を節約しますが、路面状況が変化すると、quattroシステムは即座に反応して作動を再開します。これら3モデルのいずれでも、quattroフルタイム4WDシステムは、ホイールセレクティブ トルクコントロールと密接に連携して働く仕組みになっています。ホイールセレクティブ トルクコントロールは、ESCのソフトウェア機能のひとつであり、コーナリング中に軽いブレーキでの介入を行うことで、トルク分配の制御をより緻密に行い、限界でのハンドリング特性を改善します。

Audi R8:アクティブ制御のフロントディファレンシャル
Audi R8では、リヤアクスル ディファレンシャル及びロッキングセンターディファレンシャルと一体化された7速Sトロニックのユニットが、エンジンの背後に搭載され、プロペラシャフトを介し駆動力をフロントアクスルにも伝える役割を果たしています。また、フロントディファレンシャルには、電子制御のマルチプレートクラッチが一体化されており、1,000分の数秒という瞬時の判断により、適切な駆動トルクをフロントホイールに伝達しています。高性能なトランスミッションメカニズムと、ミドシップ スポーツカー専用にチューニングされた4WD機構のソフトウェアの組み合わせにより、俊敏性と安定性をかつてないレベルで両立させたドライビングダイナミクスが実現しています。

未来のシステム:e-tron quattro
アウディは、2015年のフランクフルト モーターショーで脚光を浴びたAudi e-tron quattro conceptを通じて、quattroドライブの未来 — 電動化されたquattro、称して“e-tron quattro”のテクノロジーを紹介しています。このスポーツSUVのコンセプトモデルには、フロントアクスルに1つ、リヤアクスルに2つの合計3つの強力な電気モーターが搭載されています。低負荷走行時には、そのうちひとつのモーターだけが駆動力を供給します。しかし、ドライバーがアクセルペダルを床まで踏み込むと、3つのモーターが同時に働いて、370kWのパワーと800Nmを超えるトルクが発揮されるようになります。

ドライブトレインの制御は、アクセルペダルの踏み込み量、アウディドライブセレクトで選択されたモード、SもしくはDのドライビングプログラム、及びバッテリーの充電レベル、といったデータを基に行われます。そこでは、力強い運動性能と同時に最大限の効率が追求されており、ドライブに出発するときにはまず、消費電力を最小化するための戦略が立てられ、走行中は、回生ブレーキを通じて、エネルギーの回収を図ります。

フロントとリヤのアクスルへのパワー分配は、様々なデータをパラメーターに制御されており、Audi e-tron quattro conceptをスポーティに走らせた場合には、リヤアクスルに搭載された2つの電気モーターにより、スポーツディファレンシャルの働きに似たトルクベクタリングの効果が生み出されます。「トルクコントロールマネージャー」により、リヤ2輪間のトルク分配をアクティブに制御することで、ハンドリングの俊敏性と安定性が最高レベルにまで高められています。電気モーターはほぼ瞬時の反応を示すため、すべての面で素晴らしく敏感な制御アクションが得られています。

Audi quattro - 誕生と発展の歴史

quattroテクノロジーの起源は、1976-77年の冬まで遡ることができます。雪深いスウェーデンの地で、アウディの技術者チームがテストドライブを実施したのですが、そのときの伴走車だったIltis(イルティス:アウディが開発に参画した軍用4WD車両でフォルクスワーゲンが製造しドイツ軍が1970~80年代に採用)がパワーわずか55kW(75hp)にもかかわらず、はるかにパワフルな前輪駆動のアウディのプロトタイプよりも、優れたパフォーマンスを披露したのです。

後にquattroシステムを生み出したアウディ技術陣の解決策は、トランスミッションの内部に中空のシャフト-素材を削って作った直径263mmのセカンダリーシャフトを設置して、そこから2方向に駆動力を振り分けるというものでした。そのシャフトにより、センターディファレンシャルのハウジングを駆動し、センターディファレンシャルはプロペラシャフトを介して、駆動力の50パーセントを、ロッキングディファレンシャルが備わるリヤアクスルに伝えます。駆動力の残りの50パーセントは、中空のセカンダリーシャフトの内側で回るアウトプットシャフトを介して、フロントアクスルのディファレンシャルに伝達されます。

中空シャフトの採用により、重いトランスファーケースも2本目のプロペラシャフトも必要としない、軽くコンパクトで効率的で事実上テンションフリーな4WDシステムが誕生しました。quattroドライブにより、4WDはもはや鈍重なオフロード車両だけのものではなくなり、スポーティカー、そして量産モデルにも利用できる道が拓けたのです。

1980年:初代quattroの誕生
1980年のジュネーブ国際モーターショーで、革新的なテクノロジーであるquattroドライブが、147kW(200hp)エンジンを搭載したボクシーなクーペ、Audi quattroとともに衝撃的なデビューを飾りました。当初、少量生産の予定だったUr-quattro(初代クワトロ)は、強い要望から、正式な生産モデルとして量産化されることになり、そして幾度もの改良を経て、1991年まで販売が継続されることになったのです。1984年には、225kW(306hp)エンジンを搭載した少量生産のSport quattroも販売されています。

1986年にアウディは、第1世代のquattroドライブシステムが採用したマニュアルロック機構付きのセンターディファレンシャルを、トルセン(トルクセンシング)ディファレンシャルに切り換えました。ワームギヤを備えたこのディファレンシャルの働きにより、駆動トルクをバリアブルに分配できるようになりました。そして、2005年に実施されたその次の大規模な改良では、プラネタリーギヤを新たに採用し、駆動力を前後不均等に分配することも可能になったのです。

そうした技術革新と並行して、アウディはquattroモデルのラインナップを拡大してきました。遡って1980年代初頭に、アウディはすべてのモデルシリーズにquattroドライブシステムを設定していく決断を下していたのです。それらのニューモデルは、アウディが市場のなかでプレミアムブランドとしての地位を確立していく上で、決定的といえる役割を果たしました。1995年には、TDIエンジンを搭載した最初のquattroモデルも発売されています。その4年後には、コンパクトセグメントのクルマにも、quattroテクノロジーが展開されるようになりました。

日本でのquattro認知と評判
初代quattro誕生の衝撃は、海を渡って日本にも伝わりました。Ur-quattro自体は、正規では1983~86年にごく少量販売されただけでしたが、世界ラリー選手権での大活躍などもあって、技術面でのインパクトは非常に大きく、1980年代終盤になると、日本の自動車メーカーのあいだでも、Audi quattroにならってフルタイム4WDのコンセプトを採用した高性能スポーツモデルが次々開発されるようになりました。

アウディのquattroモデルとしては、1986年にAudi 200 quattroが、1988年にAudi 80 quattroが発売され、日本でもラインナップの幅を広げていきました。しかしながら、マニュアルトランスミッションだけの設定だったこともあって、販売台数は限られていました。ところが1990年代半ばになると、ティプトロニックを備えた仕様を含めてquattroモデルの幅広い選択肢が提供されるようになり、それにつれて、特にAudi A6、Audi A8といった上級モデルにおいては、quattroが販売の主流を占めるようになりました。2000年以降は、さらにS、RS、allroad quattroといった4WD専用のモデルが数多く投入されるようになり、それぞれ市場で人気を博して、「Audi=quattroシステムを採用した高性能で先進的なプレミアムカー」というイメージが広く定着していきました。

2013年には、日本で販売されたアウディモデルの半数以上が、quattroシステムを採用していました。その後、コンパクトセグメントのモデルの販売台数/比率が増大したこともあって、2016年は44パーセントという数字に落ち着いていますが、quattroがイメージ面でも販売面でも、アウディの根幹を成すテクノロジーであることは間違いありません。

モータースポーツにおけるAudi quattro
アウディは1977年から、ラリーに参戦するプランを温めていました。そして1981年に、世界ラリー選手権(WRC)で、華々しいデビューを飾ったのです。Audi quattroをドライブしたフィンランド人のハンヌ ミッコラが、モンテカルロラリーの雪が残った最初の6つのスペシャルステージで、トップタイムを記録してみせたのです。そのときミッコラは、終盤2位に6分近いリードを保ちながら、マイナートラブルによるリタイヤで惜しくも勝利を逃してしまいましたが、次戦のスウェーデンラリーで、アウディにWRCでの初勝利をもたらしました。

翌1982年はAudi quattroがWRCを文字通り席巻するシーズンになりました。アウディはあわせて7つのラリーで勝利を挙げ、楽々とマニュファクチャラーズ チャンピオンの座を確保したのです。1983年には、ミッコラがドライバーズタイトルを獲得。それまで2度WRCチャンピオンになったヴァルター ロールがアウディチームに参加した1984年には、初戦のモンテカルロでロールが同僚のスティグ ブロンクビストとハンヌ ミッコラに先着し、シーズン終了時にはアウディが、マニュファクチャラーズ チャンピオンと、ブロンクビストの手によるドライバーズチャンピオンの両方のタイトルを獲得していました。

オーバー500hpのAudi Sport quattro S1
WRCでのタイトル争いが苛烈になるにつれ、ライバルメーカーは、当時のグループBのレギュレーションの許容範囲を活用して、ラリー用にミドシップのレイアウトを含めた、まったく新しい設計のモデルを製作するようになりました。それに伴い、アウディも1984年シーズン途中に、ホイールベースを縮めてハンドリングの敏捷性を高めたAudi Sport quattroを投入しています。そして翌1985年シーズンには、パワーを370kW(500hp)まで高めたAudi Sport quattro S1を参戦させました。

中間的なギヤレシオのトランスミッションを搭載した仕様で、重量1.090kgのAudi Sport quattro S1は、0-100km/h加速を3.1秒で達成しました。シーズン最後のブリティッシュRACラリーで、ロールは、空気圧で作動するシーケンシャルトランスミッションを使用しましたが、これは今日のSトロニックの先駆けとなるテクノロジーです。

1988年:サーキットレースへの転換
その翌年、アウディはモータースポーツ活動の舞台を、サーキットでのツーリングカーレースに切り替えました。1988年には、Audi 200で、北米のTransAmシリーズに参戦し、初年度にしてマニュファクチャラーズとドライバーズのタイトルを獲得しています。翌年には、レギュレーションがさらに緩いIMSA GTOシリーズでも活躍しました。

1990年にアウディは、レース活動の場をドイツのツーリングカー選手権(DTM)に移し、そこでハンス シュトゥックが、大型でパワフルなAudi V8 quattroをドライブして、初年度にドライバーズタイトルを獲得してみせました。翌1991年には、フランク ビエラが、同じくドライバーズタイトルに輝いています。1992年にテクノロジーに関する対立からDTMシリーズから撤退するまでに、Audi V8 quattroは、出場した36戦のうち18戦で勝利を収めています。

1996年には、2ℓの4気筒エンジンを搭載したAudi A4 quattro Supertouringが、世界の3つの大陸の7つの国内選手権に参戦し、そのすべてでタイトルを獲得しました。

その2年後、ヨーロッパの主要なツーリングカーレースで、4WDが禁止されることになりました。それまでのAudi quattroの活躍をまとめると、以下のようになります。

●世界ラリー選手権で4つのタイトル
●米国パイクスピークで3度の勝利
●米国のTransAmシリーズでの総合優勝
●DTMでの2度のタイトル
●各国のナショナルツーリングカー選手権での合計11のタイトル
●ツーリングカーワールドカップでの優勝

2012年:Audi R18 e-tron quattroの4WDシステム
アウディの4WDカーは、2012年になってようやく、Audi R18 e-tron quattroという形で、サーキットへの復帰を果たしました。ハイブリッドシステムを備えたこのレースカーは、後輪はV6 TDIエンジンにより駆動し、前輪については、フライホイール式のアキュミュレーター(エネルギーを一時的に蓄える装置)から2つの駆動用電気モーターに、エネルギー回生により得られた電力を供給するという仕組みを採用していました。ブレーキングの間に回生されたエネルギーを、コーナー脱出時に、前輪を駆動する電力として活用していたのです。トラクションが特別に要求される特定の運転状況においてquattroフルタイム4WDシステムを活用するというこのコンセプトの有効性は、ル・マン24時間レースでの3年連続の総合優勝という偉業により、鮮やかに証明されることになりました。

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